「もしもの時」に備える:家族で共有しておきたい「お金」の情報
はじめに
老後の生活には、体調の変化や思わぬ病気、あるいは加齢に伴う判断能力の低下など、「もしも」の事態が起こる可能性もゼロではありません。ご自身のことはご自身で管理できるうちは良いのですが、いざという時に、ご家族が代わりに手続きをしたり、必要な情報を得たりすることが難しくなる場合があります。
特に「お金」に関する情報は、非常に個人的なものではありますが、「もしも」の時にご家族が困らないように、元気なうちにいくつかの情報を共有しておくことが大切です。これは、将来の不安を減らし、ご自身もご家族も安心して日々を過ごすための一歩となります。
この記事では、「もしも」の時に備えて、ご家族とどのような「お金」に関する情報を共有しておくと良いのか、具体的な項目を挙げながら分かりやすくご説明します。
なぜ「お金」の情報を共有しておくことが大切なのでしょうか
ご自身に万が一のことがあった場合や、判断能力が低下してしまった場合に、ご家族がお金の手続きをする必要が出てくることがあります。しかし、必要な情報がどこにあるか分からないと、手続きが滞ったり、ご家族が混乱したりする原因となります。
例えば、
- 入院費や施設費用の支払いが滞る
- 公共料金や税金の支払いができなくなる
- 相続の手続きで預貯金の引き出しが難しくなる
- 隠し財産や負債が見つからず、トラブルになる
といった事態が起こりかねません。事前に最低限の情報を共有しておくことで、このような混乱を防ぎ、ご家族が適切に対応できるようになります。これは、ご自身の財産をきちんと管理し、ご家族への負担を減らすことにもつながります。
家族と共有しておきたい具体的な「お金」の情報項目
では、具体的にどのような情報を共有しておくと良いのでしょうか。難しく考える必要はありません。まずは基本的なことからまとめてみましょう。
1. 預貯金口座について
- どの銀行に口座があるか: 銀行名(〇〇銀行、△△信用金庫など)と支店名
- だいたいどれくらいの口座があるか: 普通預金、定期預金など、具体的な口座数
- 利用頻度の高い口座はどれか: 年金が振り込まれる口座や、公共料金の引き落としに使っている口座など
これらの情報があれば、ご家族はどの金融機関にアクセスすれば良いか分かります。通帳やキャッシュカードの保管場所も伝えておくとさらに良いでしょう。ただし、暗証番号などのセンシティブな情報は、直接伝えることに抵抗がある場合は、信頼できる形で別の場所に保管し、その場所だけを伝えるなどの工夫も考えられます。
2. 保険について
- 加入している保険の種類: 生命保険、医療保険、損害保険(火災保険、地震保険など)
- 保険会社名: 〇〇生命、△△損保など
- 保険証券の保管場所:
病気や事故など「もしも」の際には、保険金が頼りになります。ご自身がどんな保険に入っているか、ご家族が把握していると、いざという時に速やかに保険会社に連絡し、手続きを進めることができます。
3. 年金について
- 年金の種類: 国民年金、厚生年金など
- 年金証書の保管場所:
- 年金の振込先口座: (預貯金口座の情報と関連付け)
ご自身が受け取っている年金に関する情報も大切です。年金事務所への手続きが必要になる場合もありますので、年金証書などがどこにあるか伝えておくと、ご家族が手続きしやすくなります。
4. 不動産について
- 所有している不動産(自宅、土地など)の場所: 登記簿謄本などがどこにあるか
- 固定資産税などの納税に関する書類の保管場所:
不動産は大きな資産ですが、固定資産税の支払いや将来の相続など、管理に関する情報も重要です。登記済権利証や固定資産税の通知書など、関連書類の保管場所を伝えておきましょう。
5. その他(証券、貴金属、借入金など)
- 株式や投資信託などの証券があるか: 証券会社名、取引残高報告書などの保管場所
- 貴金属や骨董品など換金性のあるものがあるか: 保管場所
- 借入金やローンがあるか: 借入先、返済状況が分かる書類の保管場所
預貯金や不動産以外にも、こうした資産や負債がある場合は、その存在と関連書類の保管場所を伝えておきましょう。特に負債は、ご家族が知らないと後々トラブルになる可能性があります。
情報を共有する際のヒントと注意点
- 一度に全てではなく、できることから始める: 焦る必要はありません。まずは預貯金口座の情報だけ、次に保険、というように少しずつ整理し、ご家族に伝えていくと良いでしょう。
- 情報をまとめる場所を決める: ノートやエンディングノート、あるいはパソコンのファイルなど、情報を一つにまとめる場所を決めておくと、ご家族が見つけやすくなります。「もしもの時にお金に関する情報は〇〇(場所)にまとめてあるよ」と伝えておくだけでも大きな助けになります。
- プライバシーに配慮する: 全ての詳細な情報(口座番号全て、暗証番号など)をオープンにする必要はありません。まずは「どこの銀行に口座があるか」「どんな保険に入っているか」といった概要から伝え、いざという時のアクセス方法(どこに書類をまとめているかなど)を共有するのが現実的です。
- 定期的に見直す: 口座が増えたり減ったり、保険に入り直したりと、お金の情報は変わります。一度伝えたきりにせず、数年に一度など、定期的に情報を見直して更新しましょう。
- 相談できる専門家を知っておく: ご自身やご家族だけで対応するのが難しい場合のために、弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーといった専門家への相談も選択肢として知っておくと安心です。
まとめ
将来の「もしも」に備えて、ご自身のお金に関する情報を必要な範囲でご家族と共有しておくことは、ご家族の負担を減らし、ご自身の財産を守るためにも非常に大切な準備です。
この記事で挙げた項目を参考に、まずはご自身のお金に関する情報を整理してみましょう。そして、無理のない範囲で、信頼できるご家族にその存在や保管場所を伝えておくことから始めてみてください。
事前準備をすることで、漠然とした将来への不安は「安心」へと変わっていきます。ご自身とご家族のために、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。