「もしも」に備える:老後資金と相続・贈与のやさしい話
豊かな老後生活を送るために、資金計画は欠かせないテーマです。現役時代に築いた大切な資産をどのように管理し、長く安心して暮らしていくか、多くの方が考えられていることと思います。
しかし、老後資金について考えるとき、ご自身の生活費や医療費だけでなく、「もしも」の時に起こる可能性がある「相続」や「贈与」について、漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。相続や贈与と聞くと、専門的で難しい手続きを想像されるかもしれませんが、基本的なことを知っておくだけでも、将来への安心感につながります。
この記事では、老後資金の安心にもつながる、相続と贈与の基本的な考え方を分かりやすくご説明します。
相続とは? まず知っておきたいこと
相続とは、人が亡くなったときに、その方が持っていた財産や権利、義務を、法律で定められた人(相続人)が引き継ぐことです。財産には、預貯金や不動産のようなプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も含まれます。
誰が相続人になるのでしょうか?(法定相続人)
民法という法律では、亡くなった方(被相続人といいます)との関係性によって、相続人になる人の順序が定められています。これを「法定相続人」といいます。
配偶者(夫から見れば妻、妻から見れば夫)は、常に相続人になります。
配偶者以外の相続人には、順序があります。 第一順位:子や孫 第二順位:父母や祖父母(第一順位の相続人がいない場合) 第三順位:兄弟姉妹(第一順位、第二順位の相続人がいない場合)
例えば、ご夫婦にお子さんがいらっしゃる場合、配偶者とお子さんが相続人になります。もしお子さんがいらっしゃらない場合は、配偶者とご自身の父母が相続人になります(父母もすでに亡くなっている場合は祖父母)。父母や祖父母もすでに亡くなっていて、お子さんもいらっしゃらない場合は、配偶者とご自身の兄弟姉妹が相続人になります。
どんな財産が相続の対象になりますか?
相続の対象となるのは、亡くなった方が持っていた全ての財産です。具体的には、以下のようなものがあります。
- プラスの財産: 預貯金、現金、不動産(土地や建物)、有価証券(株式など)、自動車、骨董品や美術品など、価値のあるもの。
- マイナスの財産: 借金、ローン、未払いの税金など、支払う義務のあるもの。
遺品整理で見つかる品物の中にも、財産価値のあるものが含まれている可能性があります。
遺言書はなぜ大切なのでしょうか?
ご自身の希望する形で財産を分けたい場合や、相続人になる方が複数いて、話し合いが難しくなることが予想される場合、遺言書を作成することが非常に有効です。遺言書があれば、原則として遺言書の内容に従って財産を分けることになります。
遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」という話し合いを行い、財産をどのように分けるかを決めなければなりません。話し合いがまとまらないと、手続きが滞ってしまうこともあります。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、最も一般的で安全なのは「公正証書遺言」です。これは、公証役場で公証人の立ち会いのもと作成するもので、形式の不備で無効になる心配がほとんどありません。
贈与とは? 相続との違い
贈与とは、生きている方が、ご自身の財産を無償で他の誰かに与えることです。相続は亡くなった後に財産が引き継がれるのに対し、贈与は生きている間に財産を渡す点が大きな違いです。
なぜ贈与を考える方がいるのでしょうか。例えば、子や孫の教育資金やマイホーム購入の資金を援助したい場合や、ご自身が元気なうちに財産を整理しておきたい、という理由などが考えられます。
贈与税について知っておくこと
贈与を受けた側には「贈与税」がかかることがあります。ただし、すべての贈与に税金がかかるわけではありません。
- 年間110万円までの非課税枠: 1月1日から12月31日までの1年間で、受け取った贈与財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。この制度は「暦年課税」と呼ばれます。
贈与税は、受け取った金額に応じて税率が高くなる仕組みです。大きな金額を贈与する場合は、税金についても考慮する必要があります。
また、「相続時精算課税」という制度もあります。これは、贈与した時点では一定額まで贈与税がかからず、贈与した方が亡くなったときに、その贈与財産と相続財産を合計して相続税を計算するという制度です。この制度を選択するには手続きが必要ですし、メリット・デメリットがありますので、慎重に検討する必要があります。
老後資金と相続・贈与を合わせて考える
ご自身の老後生活のための資金をしっかりと確保することは、何よりも大切です。その上で、将来の相続や生前贈与について考えることは、いくつかのメリットがあります。
- 不安の解消: 「もしも」の時に家族が困らないように、今から少しずつ準備することで、漠然とした不安を減らすことができます。
- ご自身の意思を反映: 遺言書を作成したり、計画的に贈与を行ったりすることで、ご自身の希望を財産に反映させやすくなります。
- 家族とのコミュニケーション: 相続や贈与について家族と話し合うことは、お互いの考えを理解し、将来のトラブルを防ぐことにつながります。
- 計画的な対策: 時間に余裕をもって考えることで、必要に応じて専門家(弁護士、税理士、司法書士など)に相談したり、準備を進めたりすることができます。
まとめ
相続や贈与について考えることは、時に気が重いことかもしれません。しかし、これらは私たちの人生の一部であり、大切なご家族へとつながるテーマでもあります。
この記事でご紹介した内容は、相続や贈与のほんの基本的な部分です。もし、さらに詳しく知りたいことや、具体的な状況について相談したい場合は、無理に一人で抱え込まず、税理士や弁護士、司法書士といった専門家に相談することも考えてみてください。専門家は、あなたの状況に合わせて、必要な情報や手続きについて丁寧にアドバイスしてくれます。
老後資金の安心を深めるためにも、そして、将来への準備としても、相続や贈与について少しずつ理解を深めていくことは、きっとお役に立つはずです。難しく考えすぎず、まずは基本的なことから、ご自身のペースで進めていきましょう。