孫や子への生前贈与、どう考える?やさしい基本と注意点
豊かな老後生活を送る上で、資金計画は大切な要素です。これまでの蓄えを取り崩しながら生活されている中で、ご自身の資産について、将来どうなるのか、あるいは大切なご家族、例えば孫や子に何かしてあげたいけれど、どうすれば良いのかといったお考えをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
資産の管理や継承の方法の一つに、「生前贈与(せいぜんぞうよ)」があります。これは、ご自身がお元気なうちに、財産を特定の人に贈ることを言います。相続は亡くなった後に財産が移るものですが、生前贈与は生きている間に財産を渡すことができる点が異なります。
生前贈与にはいくつかの考え方や注意点があります。ここでは、特に知っておきたい基本的なことについて、分かりやすくご説明いたします。
なぜ生前贈与を考える人がいるのでしょうか?
生前贈与を考えるきっかけは人それぞれですが、よく聞かれる理由としては、以下のようなものがあります。
- 贈りたい相手(孫や子など)が必要な時に財産を使ってもらいたい 例えば、お孫さんが進学する際や、お子さんが住宅を購入する際など、まとまったお金が必要になる時期に贈与することで、その助けとしたいというお考えです。
- 自分の意思で財産の行き先を決めたい 相続の場合は、法律で定められたルール(法定相続分など)や遺言書によって財産の分け方が決まります。生前贈与であれば、誰に何をどれだけ贈るかを、ご自身の意思で自由に決めることができます。
- 将来の相続に備えて、計画的に財産を渡したい 相続が発生した際に、一度に多額の財産を渡すと、相続する側にかかる税金(相続税)の負担が大きくなる場合があります。生前贈与を計画的に行うことで、全体の税負担を抑えられる可能性があるため、これを目的とする方もいらっしゃいます。ただし、税金に関する判断は専門的な知識が必要です。
- 財産を渡す相手が喜ぶ顔を直接見たい 何より、大切なご家族に喜んでもらいたいという気持ちから、生前贈与を検討される方もいらっしゃいます。
知っておきたい「贈与税」の基本的なルール
生前贈与を行う際には、「贈与税(ぞうよぜい)」という税金がかかる場合があります。しかし、全ての贈与に税金がかかるわけではありません。
贈与税には、「暦年課税(れきねんかぜい)」という基本的な制度があります。これは、1月1日から12月31日までの1年間に、一人の人がもらった財産の合計額に対して税金がかかるという考え方です。
この暦年課税には、年間110万円の「基礎控除」という非課税枠があります。これは、もらった人一人あたり、1年間に110万円までの贈与であれば、贈与税がかからないという大変重要なルールです。
つまり、例えばお孫さん一人に1年間で110万円以下の金額を贈与しても、原則として贈与税はかかりませんし、贈与税の申告(税務署に報告すること)も必要ありません。
もし、1年間にもらった財産の合計額が110万円を超える場合、その超えた部分に対して贈与税がかかり、税務署への申告が必要になります。例えば、年間150万円を贈与した場合、150万円 - 110万円 = 40万円の部分に税金がかかる可能性があります。
この年間110万円の非課税枠は、贈与する側ではなく、贈与を受ける側(もらう人)ごとに計算されます。例えば、お孫さんが2人いらっしゃる場合、それぞれのお孫さんに年間110万円ずつ(合計220万円)贈与しても、それぞれのお孫さんにとっては110万円以下の贈与となるため、贈与税はかからないということになります。
実際に贈与を行う際の注意点
年間110万円の非課税枠を利用して生前贈与を行う場合でも、いくつか注意しておきたい点があります。
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「あげた」「もらった」という事実を明確に 贈与は、贈る側が「あげます」という意思表示をし、受け取る側が「もらいます」と承諾することで成立します。この意思の確認が曖昧だと、後々トラブルになったり、税務署から贈与と認められない場合があります。
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贈与の記録を残しておく 年間110万円以下の贈与で税金がかからなくても、「いつ、誰から誰へ、いくら贈与されたか」という記録を残しておくことが大切です。特に現金の手渡しは記録が残りにくいため、避けた方が良いでしょう。銀行振り込みを利用すれば、通帳に記録が残りますのでおすすめです。
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「贈与契約書」を作成することも検討 義務ではありませんが、たとえ少額であっても、贈与の度に「贈与契約書」を作成しておくと、贈与の事実と内容を明確に残すことができます。これにより、後々の相続の際に、誰にいつ、いくら贈与したのかを証明でき、無用なトラブルを防ぐことにもつながります。難しく考える必要はありません。贈与する人、受け取る人、贈与する財産の種類と金額、贈与の年月日などを記載し、両者が署名・捺印するものです。インターネットなどで簡単なひな形を探すこともできます。
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贈与は一度行ったら取り消せないのが原則 一度贈与した財産は、原則として返すよう求めることはできません。「やっぱり気が変わった」ということのないよう、よく考えてから行うことが大切です。
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ご家族との話し合いを大切に 生前贈与は、ご自身の財産に関わることであると同時に、贈与を受けるご家族、そして他のご家族にも影響を与える可能性があります。どのような目的で贈与を考えているのか、それによって家族にどのような影響があるのかなど、事前にしっかりと話し合い、皆が納得した上で行うことが、後々の円満な関係を保つ上で非常に重要です。
複雑なケースや不安な場合は相談を
年間110万円を超える贈与を考えている場合や、不動産などの贈与、あるいは相続時精算課税制度など、生前贈与には様々な制度やルールがあります。これらは仕組みが複雑で、個々の状況によって最適な方法や税金の計算も異なります。
もし、こうした複雑なケースに当てはまる場合や、ご自身の状況でどのように生前贈与を考えれば良いのか不安な場合は、税理士や弁護士といった専門家、あるいは税務署の窓口などに相談することも検討してみましょう。専門家は、法制度や税制に基づき、より具体的なアドバイスをしてくれます。
まとめ
生前贈与は、大切なご家族に自分の意思で財産を渡せる一つの方法です。特に年間110万円の非課税枠は、計画的に活用することで、贈与税の負担なく財産を渡す助けになります。
しかし、大切なことは、単にお金を渡すことだけではありません。なぜ贈与をしたいのか、それによってご家族にどうなってほしいのか、といったご自身の気持ちを整理し、そして何よりも、贈与を受ける方や他のご家族としっかりと話し合うことです。
資産に関することだけでなく、ご自身の気持ちやご家族への思いを伝える良い機会にもなるかもしれません。もし、生前贈与についてご検討される際は、今回ご紹介した基本的なルールや注意点を参考に、ご自身の状況に合わせて無理のない範囲で考えてみてください。
そして、もし不安なことや分からないことがあれば、ご家族や信頼できる方、あるいは専門家や行政の相談窓口に遠慮なく相談してみてください。ご自身の想いを実現し、ご家族との関係をより豊かにするための一歩となることを願っています。